演奏箇所を聞いてからの一週間は、子供たちの手伝いを母に頼み、必死で練習する日々でした。何しろ弾いたことがない曲というのは体に馴染んでいないので、暗譜で弾けるくらいに体に入れておきたいと、何度も何度も弾きました。普段は育児に追われていたのに、急にパワー全開でピアノを弾かされた体は驚いたようで、次第に手がジンジンとしびれてきました(笑)。
こうして迎えた録音日。最初は緊張しましたが、録音というのは何度でも弾き直し出来るところがいいですね。やはり生のステージとは、厳しさは違います。最後まで大変だった「ゴルトベルク変奏曲」もなんとか録り終え、その日はホッとして音楽監修の先生と乾杯しました。
年明けにはロケ地4ヶ所で手の吹き替えがあるということで、それは楽しみでした。なにしろ音はもう録ってあり、それに合わせて手を動かせばいいだけなので気がラクです。撮影現場には興味津々ですし、一昨年の大河ドラマで「綺麗!」と思っていた宮沢りえさんにお会いできるのも、ワクワクドキドキでした。今回のドラマは、主人公とその娘がいろいろな場所に移り住む設定になっており、最初のロケ地は千葉の館山でした(遠かった!)。
初めてりえさんとご挨拶した時、りえさんは録音時の映像を参考に演技を研究なさっていたようで、「もう百万回見ました」と言われて赤面してしまいました。初めて生で拝見するりえさんは、やはり美しく、演技も流石、という感じでした。
それにしても、ドラマの撮影というのは地道な作業ですね。同じセリフを何度も何度も繰り返し、カメラの角度を変えては様々な場所から撮るのですね。最初のピアノのシーンだけで22カットもあり、あまりの演技の繰り返しの多さにビックリしてしまいました。
最初のシーンが終わって14時を回る頃、いわゆるロケ弁というのをいただいていたのですが、そこへスタッフの方から済まなそうな声が。「今日予定していた3曲目のシーンは、時間が押した関係で無くなりました。日のあるうちに、どうしても海岸のシーンだけは撮らないといけないので・・・。」とのこと。3曲目はいつ撮るのかと確認すると、その曲のあるシーン自体が無くなったのだとか!それもその曲、例の「ゴルトベルク変奏曲」でした!!
エーーーーッ!あれだけ練習したのに・・・。そのショックは相当なものでした。その後、子役の方やそのお母様方とお話する中で、このようなことは珍しくなく、撮影したのに編集で使われないこともよくあるのだとか。その日は、この世界も大変なのだなあとしみじみ思いながら、帰路につきました。
続きはまた書きますね。