これはウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」に連載された「谷川俊太郎質問箱」をもとに出版された本であり、子供から大人まで幅広い層から寄せられた64の質問に、詩人の谷川俊太郎さんが答えたものです。
質問には、「くしゃみをする瞬間、目をつぶってしまうけれど、運転する時はどうしたらいい?」とか、「カゴから出ているのがフランスパンだとかっこいいのに長ネギだとそうじゃないのはどうして?」といった楽しいものから、「『大人』になるとはどういうこと?」とか、「ふつうの言葉と詩の言葉の違いは?」といった深いものまで実に様々。それに対する谷川さんの回答は、時にやさしさに満ちた心で、時に冷静な眼差しで、また、時にユーモラスなはぐらかし方でなされており、非常に面白かったです。
印象に残ったのは、「どうしてにんげんは死ぬの?さえちゃんは、死ぬのいやだよ。」と6才の娘に涙ながらに聞かれて困ったという母親への回答。谷川さんは次のように答えます。
ぼくがさえちゃんのお母さんだったら、「お母さんだって死ぬのいやだよ!」と言いながら、さえちゃんをぎゅーっと抱きしめて一緒に泣きます。そのあとで一緒にお茶します。あのね、お母さん、言葉で問われた質問に、いつも言葉で答える必要はないの。こういう深い問いかけにはアタマだけでなく、ココロもカラダも使って答えなくちゃね。
回答を読んでいて、普段、詩人として言葉を丁寧に扱っている谷川さんが、言葉を超えたコミュニケーションを大切に考えている印象を受け、少し意外な感じがしました。考えてみれば、詩とは、言葉の響きの美しさだけでなく、言葉と言葉の間、行間の微妙な心の動きを表現するものなのでしょうから、当たり前かもしれないですね。するする楽しく読めて、谷川さん独自の人間観、世界観の垣間見える、素敵な本でした。