村上春樹さんによる7年ぶりの長編小説「1Q84」を読みました。発売前から予約が殺到し、売り切れが続出するなど、すっかり話題の本になりましたね。村上春樹さんの小説は好きで今までに何冊か読みましたが、今回のは特に面白く、おかげで寝る前の読書タイムが充実したものになりました。
私が村上さんの小説に惹かれるところは、主人公の淡々とした生き方です。生きていると、些細なことで悩んだり落ち込んだり、それとは逆に、浮かれたりはしゃいだり・・・と感情の浮き沈みがあるものですが、小説の主人公には冷静で物事に動じない強さを感じます。村上さんの言葉を借りると、「クールでタフ」ということでしょうか。そして、ささやかな自分の楽しみを持ちながら、多くを求めず日々を生きているような印象を受けます。現実離れしているようにも思えますが、その姿には不思議と励まされ、癒されます。
そして、何といっても春樹ワールドの不思議な登場人物が魅力的です。今回も不思議な話し方をする美少女には、ぐいぐい引き込まれました。村上さんの小説は、非常に現実的な部分と異次元の世界が絡み合っているので、こちらも知らないうちに異次元の世界に入り込んでしまうような感覚があり、楽しめます。
それから、今回興味深く感じたのは、主人公が駆け出しの小説家であったこと。村上さんの小説を書く時のプロセスや、小説に対する考え方が垣間見れて面白かったです。
小説の中には心に響く言葉がいくつもありましたが、特に印象に残り、共感したのは次の言葉。「説明しなくてはそれがわからんというのは、つまり、どれだけ説明してもわからんということだ」。絶望的な感じもしますが、人は皆違うのだからこれを当然のことと受け止め、分からずとも他者を認め譲り合う必要があるという、肯定的な考え方も出来そうです。
話題の作品なので、読んだ人の感想が知りたくてネットを見てみると、さすがブログの時代ですね。感想が山とありました。中には登場人物を図式化し、細部を分析してその矛盾点や謎を熱心に解き明かす人もいて感心しましたが、この種の小説には、謎や未解決の部分があってもいいし、読むたびに様々に想像を膨らませて解釈するのも楽しさなのではないかと私は思います。主人公の世界を生き、その心を感じ、時に著者の考えや思想を垣間見ることが出来たら、それが私にとっては一番の小説の楽しみです。