現在公開中の、ピアニストのフジコ・ヘミングさんのドキュメンタリー映画を観に行きました。フジコ・ヘミングさんと言えば、才能がありながらも若くして聴力の大半を失い、苦難の人生を歩んできたところ、60歳を超えて「あるピアニストの軌跡」というドキュメント番組が放映され、一夜にして大ブームを引き起こしたピアニストとして有名です。私は、ブームが少し落ち着いてから出会ったフジコさんの本に感銘を受け、それ以来、演奏はもちろん、ご自身で描かれる素敵な絵や、生き様、人生観、音楽観などの全てを、心から尊敬しています。
住まいをパリに移された、ここ数年の様子がドキュメンタリー映画で観られるということで、ワクワクしながら映画館に向かいました。しかし!上映30分前に映画館に着いたにも関わらず、そこは長蛇の列。係の人に尋ねると、満席で午後の回からしか観られないのだとか。東京では2か所でしか上映されていないとは言え、さすがフジコさんですね!!午後は子ども達が学校から帰ってきてしまうため、その日は泣く泣く諦めて、数日後のチケットを予約し、また出直すことにしました・・・。
そんなわけで、やっと観られた映画でしたが、やはり素晴らしかったです!!ブームになった後も少しも驕ることなく、音楽はもちろんのこと、日々の暮らしや身の回りのもの、人や動物を大切に、誠実に生きていらっしゃる。誰にも真似出来ない、フジコさん独自の世界があり、その中で純真に美しいものを愛しながら暮らしておられる映像を眺めながら、私もその世界を生きているような感覚にとらわれ、夢のような気持ちになりました。
映画の至る所に、断片的ではありますが、フジコさんの素敵な演奏が流れていましたが、十八番であるリスト作曲「ラ・カンパネラ」だけは、全曲が流れました。本当に心を打つ、素晴らしい演奏でした。『「ラ・カンパネラ」の演奏は、大家の演奏と比べてください。私の精神が表れている、それは、私は誇りを持って言える。あのような全力で弾かなければならない曲には、自然とその人の精神や生活があらわれるもの。分かる人には分かるはず。』というフジコさんの言葉には、ご自身の生き方に対する強い自信と誇りが窺えました。だからこそ、あの音色、あの音楽が生まれるのでしょうね。
80歳を超えて、今も誠実に音楽に向き合いながら、挑戦を続けていらっしゃるお姿には、本当に頭が下がります。最近のTV出演の際に、「私は最近、前よりうまくなっている、いろんなことが分かるようになってきたから」とおっしゃっていたのも印象的でした。私も、日々を大切に生きて、自分の音、自分の音楽を探し求めていきたいと、改めて思いました。そして、人生経験をかさねるにつれ、うまくなっていけるといいなと、フジコさんの言葉から希望の光が見えました。